「iDeCoと企業型DCと新NISA、結局どれを使えばいいんですか」。以前、会社の同僚からそう聞かれて、私はうまく答えられませんでした。それぞれの制度を単体で説明することはできても、三つを並べて「どういう関係にあるのか」を自分の言葉で整理したことがなかったからです。
簡単に言うと、iDeCo(個人型確定拠出年金)は自分で申し込み、自分で掛金を出し、自分で運用する私的年金です。新NISA(少額投資非課税制度)は、投資で得た利益が非課税になる制度です。そして企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が掛金を出してくれる企業年金の一種です。調べてみると、迷う理由は制度そのものが難しいからというより、これらが「階層」になっていることが説明されずに、横並びで紹介されがちだからだと感じました。今回は、その階層と、iDeCoと企業型DCを併用するときのルールを、私なりに地図のように並べ直してみます。どれを選ぶべきかを勧める記事ではなく、選ぶ前に全体を眺めるための記事です。
三つの制度は、横並びではなく「階層」になっている
会社員の年金・資産形成制度は、大きく分けると次のような層になっています。一番下にあるのが国の年金(国民年金と厚生年金)。その上に、会社の企業年金があります。企業型DCや確定給付企業年金(DB)などがこれにあたりますが、ここは「ある会社とない会社がある」層です。さらにその上に、個人で任意に加入するiDeCoがあり、そして新NISAがあります。
私が最初に混乱していたのは、この点でした。同僚の話を聞いていても、企業型DCがある人とない人では、そもそも使える制度の前提が違います。自分がどの層まで持っているかを把握するのが、地図を読む最初の一歩だと思います。
税制優遇の「三段階」と「一段階」の違い
iDeCoと企業型DC/DBは、税制優遇が三段階あります。掛金が全額所得控除になること、運用益が非課税であること、そして受け取るときにも退職所得控除や公的年金等控除といった優遇があること、の三つです。
一方、新NISAの税制優遇は「運用益が非課税」という一段階のみです。掛金(投資した金額)の所得控除はありません。私はここを長いあいだ曖昧に捉えていて、「どちらも非課税だから似たようなもの」と思っていました。実際には、入口(拠出時)と出口(受取時)に優遇があるかどうかで、性格がかなり違います。
そのかわり、引き出しやすさは逆になります。iDeCoは原則60歳まで引き出せません。新NISAはいつでも引き出せると金融庁の資料にも明記されています。また新NISAは非課税で保有できる期間が無期限で、生涯の投資枠は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)です。
「税制優遇が手厚いかわりに縛りがある制度」と「優遇は一段階だが自由度が高い制度」。こう並べてみると、どちらが上というより、役割が違うものとして眺められるようになりました。
iDeCoと企業型DCは、条件を満たせば併用できる
ここが、私が同僚に聞かれて一番答えに詰まった部分です。
以前は、会社の企業型年金規約でiDeCoへの同時加入が定められていないと、企業型DCの加入者はiDeCoに入れませんでした。それが2022年10月1日の改正で、原則としてすべての企業型DC加入者がiDeCoにも同時加入できるようになっています(iDeCo公式サイトに記載があります)。
ただし、条件が二つあります。一つ目は、企業型DCの事業主掛金(会社があなたのDC口座に拠出してくれる掛金のことです)が「各月拠出」であること。年単位でまとめて拠出する方式だと併用できません。自分の会社がどちらの方式か分からない場合も、後述する人事・総務部門への確認が確実です。二つ目は、企業型DCの「マッチング拠出」を利用していないこと。マッチング拠出とは、従業員が任意で会社の掛金に上乗せして拠出する仕組みのことで、これを使っている場合はiDeCoとの併用ができません。この両方を満たす必要があります。なお、マッチング拠出の掛金も、iDeCoと同じく全額所得控除の対象です。税制優遇の仕組み自体はどちらも同じで、違うのは「iDeCoか、会社の制度に上乗せするマッチング拠出か」という窓口だと私は捉えています。
そして併用する場合、企業型DCの事業主掛金額とiDeCoの掛金を合算して、月5.5万円以内という上限があります。加えて、iDeCo側には単体でも月2万円という上限があるため、実際には「事業主掛金と合算して5.5万円以内」「iDeCo単体で2万円以内」の両方を同時に満たす必要があります。たとえば会社の事業主掛金が月3万円なら、5.5万円−3万円で計算上は2.5万円まで出せそうに見えますが、iDeCo単体の上限2万円が優先されるため、実際に拠出できるのは2万円まで、という具合です。会社側の掛金がいくらかによって、自分がiDeCoに出せる金額が変わる、というのがこのルールの肝だと私は理解しています。
「合算5.5万円以内」と「iDeCo単体2万円以内」は両方同時に満たす必要があり、後者が優先されます
「マッチング拠出を使うか、iDeCoに入るか」は、企業型DCがある会社員にとって、ひとつの分かれ道になっているようです。どちらが良いかは、会社の掛金額や本人の考え方で変わるので、ここでは選択肢があるという事実だけを置いておきます。
iDeCoの掛金上限が引き上げられた、直近の改正
もうひとつ、比較的新しい変更があります。2024年12月1日の改正で、DB(確定給付企業年金)などがある会社員、そして公務員のiDeCoの月額上限が、それぞれの制度ごとに個別に評価する方式に変わり、上限額が2万円に引き上げられました。改正前はこれらの区分では一律1.2万円などでしたから、使える枠が広がったことになります(厚生労働省の公式ページで確認しています)。なお、企業型DCのみに加入している会社員の上限は、この改正の前から2万円でした。今回変わったのは、DB等がある会社員・公務員の上限額と、上限の計算方法(会社ごとの実際の掛金額で個別に評価する方式)です。
あわせて、事務手続きも簡素化されました。加入時に必要だった「事業主の証明書」の提出や、年1回の在籍報告が原則不要になっています。以前は、この証明書を会社に依頼するのが心理的に少し面倒だという声も聞いたことがあるので、ハードルがひとつ下がったと言えそうです。
現時点(2026年9月)でのiDeCo単体の掛金上限を、加入者区分ごとに表にしておきます。制度は今後も変わりうるので、時点付きの記録として見てください。
| 加入者区分 | 月額上限(2026年9月時点) |
|---|---|
| 自営業等(第1号被保険者) | 68,000円(国民年金基金・付加保険料と合算枠) |
| 会社員(勤め先に企業年金なし) | 23,000円 |
| 会社員(企業型DCのみ/DB等併存)・公務員 | 20,000円 |
| 専業主婦・主夫(第3号被保険者) | 23,000円 |
同じ「会社員」でも、勤め先に企業年金があるかどうかで上限が変わります。自分がどの行に当てはまるのかが、ここでも問われることになります。
自分の加入状況は、どこで確認できるか
ここまで読んで、「そもそも自分は企業型DCに入っているのか」「マッチング拠出を使っているのか」が分からない、という方もいると思います。正直に言えば、私も以前はそうでした。
残念ながら、これを確認するための公式の統一書式のようなものはありません。給与明細の控除欄、企業型DCの運営管理機関(自分のDC資産を管理している銀行・証券会社・保険会社などの金融機関)の加入者専用WEBサイト、会社の退職金規程や企業年金規約、といった間接的な手段はありますが、会社ごとに表記や運用がまちまちなため、いちばん確実なのは人事・総務部門に直接聞くことだと思います。遠回りに見えて、これが一番早い。私自身、明細を眺めて推測するより、ひとこと聞いたほうがすっきりしました。
おわりに——地図を持ったうえで、組み合わせは人それぞれ
三つの制度は、横並びの選択肢ではなく、国の年金・会社の企業年金・個人のiDeCo・新NISAという階層になっています。iDeCoと企業型DCは、条件を満たせば併用できます。上限は区分ごとに違い、2024年12月の改正で広がった区分もある。今回の記事で並べたのは、このくらいのことです。
そのうえで、どの制度をどう組み合わせるかは、勤め先の制度、収入、いつ頃お金が必要になるか、といった事情で本当に人それぞれだと感じています。同僚に聞かれたとき、私が答えられなかったのは、知識が足りなかったからでもありますが、「その人のことを知らなければ答えようがない」問いだったからでもあります。自分がどこにいるかを知るところから始まるのだと、今回改めて感じました。この記事は、その問いに向き合う前に手元に置いておく地図のようなものとして、書きました。