ひとことで言うと
グロービングは、企業の経営戦略やM&Aを助言するコンサルティング会社で、最近はAIを使ったソフトウェア事業にも力を入れています。単発の相談業務から、顧客と長く付き合いながら稼ぐ関わり方へと事業のやり方を変えている最中で、コンサル事業の拡大とAI事業の黒字化が重なり、売上は前年より39.4%増えました。細かい数字や読み方は本文で解説します。
前回は、ニッポン高度紙工業という高機能紙のメーカーを例に、企業の「成長段階」を読む7つの観点をたどりました。あの会社は、製品そのものは変わらないまま、使われる先が家電からデータセンターへと広がっていくタイプでした。
今回は、いわば逆のタイプを見てみます。製品や顧客が変わるというより、「事業モデルそのものが変わりつつある会社」です。同じ枠組みで正反対の会社を読んでみると、7つの観点それぞれが「何を測っているのか」が、より立体的に分かるのではないかと思いました。
1. なぜ、二社目に「モデルが変わる会社」を選んだのか
例に選んだのは、グロービング(277A)というコンサルティング会社です。私が個人的に調べた「AI・半導体関連」の中小型株のなかで、この会社は「事業モデルそのものが成長過程にある」と最も強く感じた一社でした。
素材メーカーには、モノとシェアと工場があります。コンサルティング会社にあるのは、人と顧客との関係だけです。そういう会社を同じ物差しで読むとき、どの観点が厚くなり、どの観点が薄くなるのか。それが今回の関心です。前回と同じく、この会社が良いか悪いかを述べる記事ではなく、「読み方の練習台」として選んでいます。
「誰に・何を・どう稼ぐか」を単純化した図です。詳細は観点②③で補います
前回と同じ7つの観点で、正反対のタイプの会社をたどります
| ① 経路 | 単発助言からJI型(共同事業化)へ、顧客への関わり方そのものを転換 |
|---|---|
| ② 障壁 | 特許ではなく「顧客業務への深い関与」という関係性の蓄積 |
| ③ 顧客 | 「助言を買う」関係から「共同で事業をつくる」関係へ変化 |
| ④ 戦略 | コンサル知見をAIエージェント化し、人員比例の売上構造を非線形化 |
| ⑤ 特需/構造 | DX・AI人材不足は構造的、IPO後の注目度は一時的な要素も混在 |
| ⑥ リスク | 人材採用難、大手との競合、大口顧客集中、JI型案件の属人化 |
| ⑦ 数字 | 売上115.1億円(+39.4%)、時価総額約528億円 |
2. 観点① 成長の経路——単発助言から、JI型(共同事業化)へ
最初に確かめるのは、成長の「経路」でした。
同社の成長は、「需要が増えた」という一言では説明しにくいものです。整理すると、従来型の助言——分析して報告書を納めて終わる仕事——から、顧客企業の内部に入り込み、事業責任者に近い立場で改革を実行する「JI(Joint Initiative)型」へ、事業の軸足を移していることが経路の中心にあります。
単発の助言ではなく、顧客との共同プロジェクトになるので、案件が継続しやすく、大型化もしやすい。つまり同社の場合、成長の理由は市場の追い風そのものというより、「顧客への関わり方を変えたこと」にあります。
前回の会社は「同じ製品が、成長する用途に使われるようになった」でした。今回は「売り方と関わり方を変えた」。同じ「成長段階」でも、経路の種類がまったく違うことが、一問目からはっきりします。
3. 観点② 差別化と参入障壁——実行への関与・業務知識の蓄積・AIエージェント化
次に、「競合が簡単に追いつけない理由」です。
同社の障壁は、特許のような強固なものではありません。調査では、三つの要素が重なった複合的な障壁と整理されていました。①戦略の策定だけでなく実行段階まで関与すること、②顧客固有の業務知識や意思決定プロセスが社内に蓄積されること、③その蓄積をAIエージェントやSaaSという形に転換していること、の三つです。実際に、大手顧客と「グロービングくん」「AI議事コン」といったプロダクトを共同開発中とされています。
前回、参入障壁には「特許型」と「認証・実績型」がある、と書きました。今回のものは、後者よりさらに柔らかい「関係の深さ型」とでも呼べるものです。顧客の中に深く入っているほど置き換えにくい。ただ、この種の障壁は目に見えにくく、外部から検証しにくい。強みが柔らかいぶん、確認の難しさも増す点は意識しておきたいところです。
4. 観点③ 顧客基盤の変化——「助言を買う」から「共同で事業をつくる」へ
三つ目は、「誰が、なぜ、買い方を変えているか」です。
同社では、顧客との関係が「助言を買う」から「共同で事業をつくる」へ変化している、と整理されています。数字の面では、AI事業セグメントの売上が前年比+856.8%で黒字転換した一方、その絶対額はコンサルティング事業に比べてまだ小さい、とされていました。
ここで私が気をつけたいのは、伸び率と絶対額を分けて見ることです。+856.8%という数字は印象が強いのですが、元が小さければ率は大きく出ます。「顧客との関係が変わり始めた」という定性的な変化の証拠として受け取るのが、今のところ妥当な読み方だと感じました。
5. 観点④ 経営陣の戦略と資本配分——コンサルタントの知見を、AIエージェントに置き換える
四つ目は、経営陣がお金と時間をどこに振り向けているかです。
コンサルティング業には、売上が「人数×単価」に比例しやすいという構造があります。人を増やさなければ売上が伸びない。同社の経営陣は、コンサルタントの知見をAIエージェントに置き換えることで、この「人員数に比例する売上構造」を非線形にしようとしている、と読み取れます。
一方で、2026年5月期に初めての配当(1株16.1円、配当性向15.0%)を開始しています。2027年5月期については、会社側が配当性向30.0%を目途とした増配(1株35.6円)の計画を公表しています——あくまで会社が示した計画であり、その通りになるかどうかをこの記事で見立てるものではありません。成長投資を優先しつつ、還元の比率を段階的に引き上げていく方針、という位置づけで受け止めています。
前回の会社は「持っている強みを需要のある場所に配置し直す」堅実型でした。今回は「事業の構造そのものを変えようとしている」転換型です。観点④の厚みが、二社でまったく違います。
6. 観点⑤ 特需か、構造的な成長か——DX人材不足という構造と、IPO直後の一時的な追い風
五つ目は、いちばん判断の難しいところです。
構造的な追い風として挙げられていたのは、DX・AI導入の需要と、変革を担える人材の不足です。これらは中期的に続く可能性がある流れと言えそうです。一方で、IPO後の認知度向上や、少数の大型案件による押し上げといった、一時的な要素も混在している、と整理されていました。
そして分岐点は、「AIプロダクトが継続課金型のビジネスとして定着するかどうか」にある、というのが調査の見立てでした。
前回と同じ「構造的な追い風の上に一時的な増幅が乗っている」二層構造ですが、今回は分岐点そのものが「これから決まる」タイプです。決まっていないことを、決まったように読まない。それがこの観点のコツだと改めて思います。
7. 観点⑥ リスク要因——人材確保・大手競合・案件の属人化
六つ目は、良い面と同じ重さでリスクを見ることです。調査で整理されていたのは、次の5点でした。
- コンサルタントの採用難と、人件費の上昇
- 大手コンサルティング会社・SIer・AIベンダーとの競合
- 大口顧客への売上の集中
- PoC(概念実証)が本契約に進まないリスク
- JI型案件が担当者個人に依存し、組織としての再現性が弱い可能性
最後の点は、観点②で見た強みと同じ根から生えています。顧客の中に深く入り込む人がいるから障壁になり、その人がいなくなれば障壁も消える。前回も「強みと弱みは同じ根」と書きましたが、人に依存する事業では、この構図がより直接的に現れるように思います。
8. 観点⑦ 定量データ(参考)
数字は最後に、時点を明記して補助的に置きます。以下はいずれも、2026年8月15日の調査時点で確認した値です。
| 項目 | 実績値 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 115.1億円 | +39.4% |
| 営業利益 | 41.4億円 | +47.9% |
| AI事業セグメント売上 | — | +856.8%(黒字転換) |
AI事業セグメントの+856.8%は元となる絶対額が小さいため、業績全体の伸び率とは単純比較できません(本文参照)。
| 時点 | 時価総額 | 備考 |
|---|---|---|
| 2026年8月15日 | 約493億円 | — |
| 2026年9月2日 | 約528億円 | 株価1,838円・前日比-3.62% |
時価総額(単位: 億円)の推移。3週間ほどで約7%の上昇となりました。時価総額は日々動く値であり、掲載時点で大きく変わっている可能性があります。スケールは会社ごとに調整しています。
これらは「過去にこうだった」という記録です。ここから将来を読むのは、この記事の役割ではありません。ここまでの定性的な読み——事業モデルの転換、AI事業の立ち上がり——が「実際の業績と矛盾していないか」を確かめる照合材料、というくらいの位置づけです。なお、時価総額は日々動く値であり、掲載時点で大きく変わっている可能性があります。
9. 結びに——「どの観点が厚いか」に会社の個性が出る
二社を同じ枠組みで読んでみて、持ち帰ったのは次のようなことです。
前回の素材メーカーは、観点②(参入障壁)が厚く、観点④(経営陣の戦略)は堅実で薄めでした。今回のコンサルティング会社は、観点①(成長の経路)と観点④が厚く、観点②は柔らかい。そして観点⑤(特需か構造か)の分岐点が、まだこれから決まる。
7つの観点は、埋めること自体が目的ではなく、「どこが厚く、どこが薄く、どこが未確定か」という形を眺めるための枠だったのだと思います。その形が、会社の個性そのものです。
繰り返しになりますが、この記事は「読み方の練習」であって、この会社についての結論ではありません。私自身、この会社をどう考えるかは、ここでは判断していません。ただ、正反対の二社を同じ物差しで測ってみると、物差しのほうの意味が見えてくる。その感覚を共有できていたら嬉しいです。
参照元(2026年9月2日確認)
- 決算短信(2026年5月期): 日経会社情報DIGITAL「グロービング 決算短信」
- 配当・増配計画: FISCO「グロービング Research Memo(9)」
- 株価・時価総額: Yahoo!ファイナンス「グロービング(277A)」
- 成長段階の定性分析(一次調査): 筆者による個人調査(2026年8月15日実施、Perplexity等を用いた公開情報の収集・整理)
続き: 赤字を出しながら投資する会社を例に、同じ7つの観点で読む(シリーズ3本目)