このブログではこれまで、「新NISAとiDeCo、どこが違うのか」や「証券口座はどう選ぶか」といった、始める前の話を書いてきました。あるとき自分の記事一覧を眺めていて、ふと気づいたことがあります。「売った後」の話を、一度も書いていない。
投資の情報は「始め方」に偏りがちで、実際に売った後に何が起きるのか、何を確認しておくと安心なのかは、意外と手薄なように思います。私自身、最初に売却したときに「あれ、これで終わりじゃないのか」と戸惑った覚えがあります。今回はその戸惑いを、制度の知識として並べ直してみます。
売った翌年に、NISAの枠は「買値の分だけ」戻る
NISA口座で保有している商品を売ると、その分の非課税保有限度額は復活します。ただし、ここに二つの注意点があります。
一つ目は、戻る金額です。復活するのは売却時の金額ではなく、その商品を買ったときの金額(簿価、取得価格)の分です。仮に100万円で買った投資信託が150万円に値上がりした状態で売ったとしても、戻ってくる枠は100万円であって、150万円ではありません。この仕組みは「簿価残高方式」と呼ばれています。
二つ目は、戻る時期です。売ってすぐにその年のうちに枠が戻るのではなく、翌年の1月1日に復活します。「値上がりして得をしたのだから、枠もそのぶん増えて、しかもすぐ使えるはず」と思っていた方が、実際には翌年まで待つことになって驚く、という話を見聞きします。私も最初は同じ感覚でした。
得をした金額と、戻る枠の金額は別物で、戻るのは翌年。この二点を知っているだけで、売った後の見通しがずいぶん立てやすくなると感じています。なお、ここで戻るのは生涯の非課税保有限度額(1,800万円の枠)であって、年間投資枠(つみたて120万円・成長240万円)そのものが増えるわけではない、という点も併せて押さえておきたいところです。
戻る枠は売却額ではなく取得価格(簿価)の分だけ、しかも売却した年ではなく翌年1月1日に復活する
「NISAだから配当は非課税」は、設定次第で崩れる
NISA口座で株式を持っていれば配当金は非課税、と私は長いあいだ単純に思い込んでいました。ところが、これには条件があります。
配当金を非課税で受け取るには、受取方法として「株式数比例配分方式」を選んでおく必要があります。日本証券業協会の案内によれば、これを選ばずに「配当金領収証方式」などのままにしていると、NISA口座で保有している株式であっても配当金には課税されてしまいます。
しかもこの設定は、口座を開いたときに自動でそうなっているとは限りません。自分がどの方式になっているかは、証券会社の口座設定画面などで確認できるはずなので、NISA口座で配当のある株式を持っている方は、一度見ておくと安心できる項目だと思います。
特定口座か一般口座かで、確定申告の要否が変わる
売却益にかかる税金をどう納めるかは、口座の種類で変わります。
特定口座で「源泉徴収あり」を選んでいれば、証券会社が税金の計算と納付まで行ってくれるため、原則として確定申告は不要です。多くの方はこの形で始めていると思いますし、私もそうです。
一方、「源泉徴収なし」の特定口座や一般口座では、自分で年間の損益を計算して確定申告する必要があります。口座を開いたときの選択を覚えていない方は、一度確認しておくと、年明けに慌てずに済むかもしれません。
損益通算と繰越控除は、「確定申告をすると使える」制度
ここからは、知らなくても困らないけれど、知っていると使える話です。
複数の証券口座や複数の銘柄で、利益と損失を相殺できる仕組みを「損益通算」といいます。相殺しきれなかった損失を翌年以降、最大3年間繰り越して、将来の利益と相殺できる仕組みが「繰越控除」です。
どちらも確定申告をすることで使える制度です。特定口座(源泉徴収あり)だけで完結させていると確定申告は不要になりますが、その代わり、申告をしなければこれらの制度は使われません。「申告不要」と「申告すると有利になる場合がある」は両立する、というのが私の理解です。
なお、NISA口座での損失は、他の口座の利益と損益通算できません。NISAは利益が非課税になる代わりに、損失も税務上はなかったものとして扱われる、と私は受け止めています。
米国株の配当は、二重に課税されている
米国株に投資する方が増えているなかで、見落とされがちなのがこの話です。
米国株の配当は、まず米国で10%が源泉徴収されます(日米租税条約による軽減後の税率です)。その残りに対して、さらに日本で現行の税率(所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%)が課税されます。つまり、同じ配当に対して二つの国から税金がかかる、二重課税の構造になっています。
この二重課税を軽減する制度が「外国税額控除」です。確定申告をすることで、米国で源泉徴収された分の一部または全部を、日本の所得税額から控除できます。
ただし、控除できる金額には上限があり、その人の所得税額に応じて計算されるため、米国で引かれた分が全額戻るとは限りません。一例として、所得税額が小さい年には控除の上限も小さくなり、引かれた分の一部しか戻らない、ということが起こりえます。どのくらい戻るかは、読者ご自身の所得や税額によって変わる点はご留意ください。
おわりに——「売る前」より地味だが、差がつくところ
こうして並べてみると、売った後の話はどれも、派手さのない実務の知識ばかりです。枠が戻る時期、配当の受取方式、口座の種類、申告をすると使える制度、二重課税の軽減。知らなくてもすぐに困るわけではないけれど、知っているかどうかで、数年単位では静かに差がつく。そういう領域だと私は感じています。
「始める前」の記事ばかり書いてきた私にとって、この記事は自分への備忘録でもあります。