はじめにお断り: 本記事は、実在する一社を例にとって「企業の成長段階を読むための視点」を解説するものであり、当該企業への投資を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。取り上げた事実は執筆時点(2026年9月上旬の調査)にもとづくもので、その後に変わっている可能性があります。今回の対象企業はオランダに本社を置き、Euronext Amsterdamを主上場とする企業です。本シリーズでは便宜上「米国株」の枠で扱いますが、実態は米国企業でも米国上場企業でもありません。また、これまでの5社と異なり決算通貨がユーロ建てのため、本記事のみ数字をユーロ表記としています(米ドルとの換算は行っていません)。52週の株価レンジが3倍を超えるなど値動きが非常に大きく、業績や時価総額の数字は特に古くなりやすい点にご留意ください。個別銘柄の売買を判断される際は、ご自身で最新の情報を確認し、自己責任で行ってください。

ひとことで言うと

BE Semiconductor Industries(Besi)は、半導体チップを作る工場が使う「製造装置」を作るオランダの会社です。AIチップ向けの高性能パッケージング需要を追い風に、2025年後半の落ち込みから業績はV字回復していますが、次世代の接合技術(ハイブリッドボンディング)を大手メモリメーカーがいつ本格採用するかという、決算書には表れない不確実性を抱えています。細かい数字や読み方は本文で解説します。

米国株シリーズはこれで6社目、そして最終回です。ここまでの5社は、自社でチップを設計する「設計する会社」が4社、その設計図を受け取って製造する「作る会社」が1社でした。今回は、そのどちらでもない立場の会社を選びました。

ティッカー BESI(Euronext Amsterdam)
時価総額(9/4時点) 約158.9億ユーロ
売上高(2026年4-6月期) 2億4,990万ユーロ +68.7%
成長タイプ AIパッケージング装置特需と、顧客の技術採用時期リスク
顧客 ファウンドリ・IDM・ メモリメーカー・ OSAT 提供価値 ダイアタッチ・ ハイブリッドボンディング 等の後工程装置 収益源 装置本体の販売・ 保守・ アップグレード

「誰に・何を・どう稼ぐか」を単純化した図です(IDM=設計から自社工場での製造まで一貫して行う企業、OSAT=受託で組立・検査を行う業者)。詳細は観点②③で補います

7つの 観点 1 経路 2 障壁 3 顧客 4 戦略 5 特需/構造 6 リスク 7 数字

今回は、「装置を作る会社」という新しい視点から同じ7つの観点で読みます

7つの観点の要約
① 経路ダイアタッチ装置を土台に、AIチップの積層に不可欠なハイブリッドボンディングへ経路を拡張。採用顧客数は2025年末15社→2026年Q2時点21社
② 障壁ダイアタッチ市場シェア約40%・先端ダイアタッチ約75%。乗り換えコストが障壁になるが、技術優位は絶対ではなく他社も追随
③ 顧客特定顧客の売上比率は非開示(1社依存の構造ではない)。ただし中国向けが売上の3割超を占めるとされる地域集中と、大手メモリメーカーの技術採用判断への集中という二重の集中リスク。ハイブリッドボンディングは筆頭株主でもあるApplied Materialsとの共同開発技術でもある
④ 戦略2025年6月Investor Dayで2030年目標を「売上10億ユーロ超」→「15億〜19億ユーロ」等へレンジごと引き上げ。CEO自身は業界の循環性を否定しない発言
⑤ 特需/構造AI向け先端パッケージング需要は構造的、ただし装置は受注から売上計上まで数四半期のタイムラグがあり、設備投資という最も景気循環に敏感な部分に売上が乗る
⑥ リスク設備投資サイクル、ハイブリッドボンディング採用時期の先送りリスク(Samsung・SK Hynixの報道)、中国向けが3割超という地域・政治リスク、株価変動の大きさ(52週で3倍超)
⑦ 数字売上高2億4,990万ユーロ(+68.7%)、純利益8,900万ユーロ(利益率35.6%)、受注高2億9,290万ユーロ、時価総額約158.9億ユーロ

1. なぜ、米国株の六社目に「設計する会社」でも「作る会社」でもなく、「装置を作る会社」を選んだのか

BE Semiconductor Industries N.V.(Besi、Euronext Amsterdam: BESI)は、半導体の後工程(パッケージング・組立)向けの製造装置を開発・製造するオランダの会社です。1995年5月に、オランダ国内の複数の半導体組立装置事業を統合する形で発足し、同年12月に上場しました。設立時から現在までCEOを務めるRichard Blickman氏の在任期間は30年を超えています。本社はオランダ東部のDuivenにあります。株式の主上場はEuronext Amsterdamで、米国ではADR(米国預託証券、ティッカーBESIY)がOTC市場で取引されていますが、これは主上場ではありません。つまり、この会社は法人籍も本社も主上場もオランダにある、オランダ企業です。本シリーズでは、四社目のTower Semiconductor(イスラエル本社、NASDAQとテルアビブに重複上場)を「米国株」の枠で扱ったのと同じ理由で、便宜上このシリーズに含めていますが、実態は米国企業でも米国上場企業でもない、という点は最初に断っておきたいと思います。

もう一つ、最初に断っておくべきことがあります。通貨です。ここまでの五社(Ambiq Micro・MaxLinear・Astera Labs・Tower Semiconductor・Credo Technology)はいずれもNASDAQ上場で、決算も米ドル建てでしたが、Besiはユーロ建てで決算を開示しています。この記事では、これまでの五社と違い、初めてユーロ表記で数字を読むことになります。ドルとユーロの換算はしませんので、時価総額や売上高をこれまでの五社と並べて眺める際は、通貨が違うことを頭に置いてお読みください。

株価は2026年9月4日の終値で196.65ユーロ、時価総額は約158億9,000万ユーロ(発行済株式数80.82百万株換算)です。8月14日の終値は233.50ユーロ(同約188億7,000万ユーロ)でしたから、3週間ほどで約15.8%の下落になります。前回のCredo Technologyの34.4%と比べれば穏やかな下落率です。52週の値幅は105.40ユーロから328.40ユーロで、安値と高値の間には3倍超の開きがあります。高値は2026年6月半ばに記録したもので、そこからは4割ほど下げていますが、年初来では依然としてプラス圏にあるとされています。

この会社を六社目に選んだ理由は、立ち位置です。ここまでの五社を、AIチップという最終製品から見た「距離」で並べてみると、四社は自社でチップを設計する「設計する会社」、Tower Semiconductorはその設計図を受け取って製造する「作る会社」でした。Besiはそのどちらでもありません。チップを作る工場が使う「製造装置そのもの」を作る会社です。AIチップから見れば、これまでで最も遠く、最も上流にいる会社だと言えます。設計する会社を四社、作る会社を一社読んだあとで、その工場に道具を納める側の会社を一社読んでおくと、半導体という産業の輪郭がもう一段、立体的に見えるのではないか、というのが選定理由です。

そしてもう一つ、前回のCredoで見た「決算は良かったのに株価が下がる」という現象が、この会社でも形を変えて起きている、という点があります。7月23日に発表された2026年4-6月期決算は、売上高・純利益ともに大きく伸びた内容でしたが、株価はその後も下落基調を続けた、と報じられています。ただしCredoのときは、決算の「内側」(GAAP費用の急増)に理由がありました。Besiの場合は、決算そのものよりも「顧客が次世代技術をいつ採用するか」という、決算書には載らない外側の論点が株価を動かしたようです。この違いも、記事の中で見ていきたいと思います。

2. 観点① 成長の経路——ダイアタッチ装置の会社から、AIチップを積み重ねる「接合」の会社へ

Besiの事業は、半導体の製造工程のうち「後工程」と呼ばれる部分、すなわちウェーハから切り出したチップを基板に載せ、配線し、封止して製品の形に仕上げる工程で使う装置の開発・製造です。主要な製品ラインは、Die Attach(ダイアタッチ、切り出したチップを基板に載せて固定する装置)、Advanced Die Attach(先端ダイアタッチ、より高精度・高密度の実装に対応する装置)、Hybrid Bonding(ハイブリッドボンディング)、Packaging(封止装置)、Plating(めっき装置)の五つです。1995年の発足以来、この会社の土台はダイアタッチ装置であり、会社側の開示によれば、通常品のダイアタッチ市場で約40%、先端ダイアタッチ市場では約75%のシェアを持つとされています。

その土台の上で、いま成長の経路を作りつつあるのがハイブリッドボンディングです。これは、チップ同士を接着剤やはんだのバンプを介さずに、銅の配線同士を直接接合して積み重ねる技術で、AIチップに不可欠とされる2.5D/3Dパッケージング(複数のチップを横に並べたり縦に積んだりして一つのパッケージにまとめる手法)の次世代方式と位置づけられています。チップを縦に積むほど配線を短くでき、信号の速度と消費電力の面で有利になるため、AIデータセンター向けの高性能チップやHBM(広帯域メモリ)での採用が期待されてきました。会社側の開示では、ハイブリッドボンディング装置を採用した顧客の数は、2025年末時点の15社から2026年4-6月期時点で21社に増えています。

四半期の売上高を並べると、2025年4-6月期の1億4,810万ユーロから7-9月期に1億3,270万ユーロへ一度落ち込み、そこを底に10-12月期1億6,640万ユーロ、2026年1-3月期1億8,490万ユーロ、4-6月期2億4,990万ユーロと、3四半期で約1.9倍まで回復しました。純利益率も、7-9月期の19.0%を底に、4-6月期には35.6%まで上がっています。2025年通期は売上高5億9,130万ユーロで前年比-2.7%の減収でしたから、業界の下降局面の底を打ち、AI向けの先端パッケージング需要に乗って立ち上がってきた、というのが直近の経路の形です。ただし、ハイブリッドボンディングが売上全体の中でどれだけの比率を占めているかは、この記事で確認できた開示の範囲では特定できませんでした。「次世代技術への経路が開いている」ことと「その経路がすでに売上の主役になっている」ことは別の話で、後者はまだ確認できていない、という点は正直に書いておきたいと思います。

3. 観点② 差別化と参入障壁——シェア40%と75%、そしてハイブリッドボンディングの採用顧客21社

この会社の差別化は、まず後工程装置の中でも「チップを載せて固定する」というダイアタッチ工程に長く特化し、そこで通常品で約40%、先端品で約75%というシェアを積み上げてきた点にあるようです。装置産業では、いったんある会社の装置で量産ラインを立ち上げると、その装置の特性に合わせてプロセス条件を作り込むため、別の会社の装置に置き換えるには再び立ち上げの手間とリスクを負うことになります。この乗り換えコストが、シェアの高さをそのまま障壁に変えている、という構図です。先端ダイアタッチで75%というのは、その領域の量産ラインの4分の3がこの会社の装置で動いている、ということを意味します。

もう一つの障壁の候補が、ハイブリッドボンディングでの先行です。採用顧客が15社から21社へ増えたということは、それだけの数の工場で、この会社の装置を前提としたプロセスの作り込みが始まっている、と読めます。ここでも乗り換えコストが働き始めているとすれば、次世代技術の初期段階で顧客基盤を先に固めた、という意味を持ちます。

ただし、この障壁が絶対でないことも書いておきたいと思います。後工程装置には複数の競合メーカーが存在し、ハイブリッドボンディングについても他社が開発を進めているとされています。技術の優位性は、この分野では「いまの世代で先行している」ことを意味するにとどまり、次の世代で逆転される可能性は常にあります。そして、観点③と⑥で詳しく見ますが、そもそも「顧客がその技術をいつ採用するか」が会社の外で決まる、という問題があります。数字の側では、2025年通期の粗利益率は63.3%で、自ら工場を持って半導体を製造する会社と比べればかなり高い水準ですが、これは利益構造の違いであって、どちらが優れているという話ではないと思います。装置メーカーは、装置一台あたりの技術的な付加価値が大きい分、粗利益率は高く出やすい一方で、売上の絶対額は顧客の設備投資に左右されて大きく振れる、という別の性格を持っています。

もう一つ、ハイブリッドボンディングという技術そのものの性質について、書いておくべきことがあります。この技術は、Besiが完全に一社で開発しているものではありません。米国の大手半導体装置メーカーApplied Materials(AMAT、装置の取扱い品目でBesiよりはるかに広い、いわば大手の総合装置メーカー)は、2020年からBesiとハイブリッドボンディング分野で協業しており、2025年4月14日には公開市場での買い付けを通じてBesiの発行済株式の9%を取得し、筆頭株主になったと発表しました(取締役会への参画や追加取得の予定はないとされています)。この投資と同時に、両社はダイベースのハイブリッドボンディング向け統合装置ソリューションを共同開発する契約を延長したとされています。つまりAMATは、Besiにとって①装置全般で競合しうる大手企業、②筆頭株主、③次の柱と位置づける技術の共同開発パートナー、という三つの顔を併せ持っています。この関係は、Besiの技術力が大手に認められたことの裏付けとも読めますし、次の成長の柱が完全に自社単独の技術ではなく、大手パートナーとの協業に依存している、という見方もできます。どちらの読み方が適切かは、私自身まだ判断がついていません。

4. 観点③ 顧客基盤の変化——「顧客A・B」の開示はない代わりに、地域と技術採用という二つの集中がある

ここが、今回の記事でいちばん丁寧に見ておきたい場所です。ここまでの五社では、米国のSEC提出書類に「顧客Aが売上の何%」という形で顧客集中が開示されていて、前回のCredo Technologyでは上位2社で四半期売上の71%という数字を軸に読みました。Besiにはこの種の開示がありません。会社は特定顧客の売上比率を開示しておらず、顧客については大手ファウンドリ、IDM(設計から製造まで一貫して行う垂直統合型の半導体メーカー)、メモリメーカー、OSAT(受託で組立・検査を行う業者)に幅広く販売している、という説明にとどまります。装置メーカーは工場を持つあらゆる種類の半導体企業を顧客にできるため、特定の一社に依存する構造にはなりにくい、と考えるのが自然だと思います。

その代わりに、二つの別の種類の集中があります。一つは地域の集中です。会社の売上のうち、中国向けは3割を超えるとされています(具体的な比率は情報源によって幅があり、この記事では正確な一つの数字に絞らず「3割超」という形で書いています)。アジア太平洋地域全体で見れば、依存度はさらに高くなります。半導体の後工程は、前工程(ウェーハ製造)に比べて労働集約的な部分が残っているため、歴史的にアジアに集積してきた工程とされており、この地域偏重は業界の地図をそのまま映したものと読めます。ただし、中国向けが3割を超えるという構造は、これまでの五社では前面に出てこなかった種類のリスクを含んでいます。この点は観点⑥で改めて触れます。

もう一つは、「顧客の数」ではなく「顧客の判断」の集中です。ハイブリッドボンディングの採用顧客は21社に増えていますが、この技術がBesiの長期成長シナリオの要になるかどうかは、少数の巨大メモリメーカーが、HBMのどの世代からこの技術を本格採用するかに大きく左右されます。2026年7月7日、SamsungとSK Hynixがハイブリッドボンディングの採用時期を再検討している、との報道が流れました。新しい放熱技術によって、HBM4世代では既存の熱圧着ボンディング方式から移行する緊急性が下がり、ハイブリッドボンディングの本格採用はHBM4Eなど、より先の世代へ先送りされる可能性がある、という内容だったとされています。報道の当日、Besiの株価は3.8%下落し、6月半ばに付けた52週高値(328.40ユーロ)からの下落基調に入った、と報じられています。その後8月から9月にかけての下落は、この報道への懸念に加えて、半導体・ハイテク株全般に対する利益確定の動きが重なった結果とも報じられており、Besi固有の要因だけで説明しきれるものではなさそうです。

つまりBesiの顧客構造は、「売上の何%を一社が占めるか」という物差しでは分散して見える一方で、「会社の将来を左右する判断を誰が下すか」という物差しでは、ごく少数の会社に集中している、という二重の形をしています。Credoの「上位2社で71%」は、いま現在の売上が少数に依存しているという集中でした。Besiの集中は、いまの売上ではなく、将来の成長シナリオが少数の顧客の技術判断に依存している、という別の時間軸の集中です。売上の数字を眺めているだけでは見えず、顧客の技術ロードマップまで見に行かないと見えない種類の集中だと思います。

5. 観点④ 経営陣の戦略——2030年目標の「レンジ引き上げ」と、目標と現状の距離

経営陣の戦略で目を引くのは、2025年6月12日のInvestor Dayで示された2030年の長期目標の引き上げです。それまでの目標は「売上高10億ユーロ超、粗利益率62〜66%、営業利益率35〜50%」でしたが、これを「売上高15億〜19億ユーロ、粗利益率64〜68%、営業利益率40〜55%」へと、三つの指標すべてで上方修正しました。背景として会社が挙げているのは、AIデータセンター向けに加えて、エッジ(端末側)やコンシューマー向けの製品でも2.5D/3Dのチップレット型パッケージング(機能ごとに分割した小さなチップを組み合わせて一つの製品にする手法)の採用が広がる、という見通しです。2025年通期の売上高5億9,130万ユーロから見ると、2030年目標の下限でも約2.5倍、上限なら約3.2倍にあたります。

四社目のTower Semiconductorも、2026年に2028年目標を「売上28.4億ドル・純利益7.5億ドル」から「売上36億ドル・純利益12億ドル」へ引き上げていて、構造としてはよく似ています。ただ、目標の立て方には違いがあります。Towerは一つの数字を別の一つの数字に置き換える形でしたが、Besiは売上高の目標を「10億ユーロ超」という下限だけの表現から「15億〜19億ユーロ」というレンジに変え、利益率の目標もレンジのまま上下限を数ポイントずつ持ち上げています。レンジで示すということは、経営陣自身が「需要の立ち上がり方によって着地に幅がある」と見ていることの表れだと読めます。目標の中央を上げつつ、幅は残す。装置メーカーが顧客の設備投資の波に乗る商売であることを、目標の示し方そのものが映しているように思います。

一方で、目標と現状の距離も測っておきたいと思います。直近の2026年4-6月期は売上高2億4,990万ユーロで、四半期としては大きく伸びましたが、単純に4倍した年率換算でもまだ10億ユーロに届きません。2026年7-9月期のガイダンス(会社自身が発表する業績見通しで、確定した実績ではありません)は、売上高が4-6月期比+10〜15%(2億7,490万〜2億8,740万ユーロ相当)、粗利益率63〜65%です。粗利益率のガイダンスは2030年目標の64〜68%と一部重なる水準にありますが、売上高は目標の下限に対しても、これから2倍以上に伸ばす必要があります。そして、その伸びの多くを担うと位置づけられてきたハイブリッドボンディングについて、観点③で見た採用時期の見直し報道が出ている。経営陣がInvestor Dayで示した見通しと、その後に顧客側から聞こえてきた話との間に、いまは距離があるようです。なおCEOのBlickman氏は、7月23日の決算説明会で業界の循環性について問われ、経営陣自身がサイクルの存在を認める趣旨の発言をしたと報じられています。この発言は観点⑥で改めて引きます。

6. 観点⑤ 特需か、構造的な成長か——需要は構造的、ただし装置の売上は「受注から数四半期遅れて」動く

AIデータセンター向けに、複数のチップを一つのパッケージにまとめる先端パッケージングの需要が拡大していく、というテーマ自体は構造的なものと見られています。チップの微細化だけで性能を上げることが難しくなる中で、チップを横に並べ、縦に積むことで性能を稼ぐ方向へ業界全体が動いているためです。この流れがある限り、後工程の装置、特に高精度の実装や接合を担う装置の需要は続く種類のものだと読めます。Besiの2026年4-6月期の売上高が前年同期の1億4,810万ユーロから2億4,990万ユーロへ、1年で約1.7倍になったのは、この構造的な需要の立ち上がりに乗った結果だと思います。

ただし、装置メーカーであることの意味を、ここでもう一度確かめておきたいと思います。二つあります。一つは時間のズレです。装置は受注してから製造・据付・検収を経て売上に計上されるまで数四半期のタイムラグがあるため、「いま計上されている売上」は数四半期前の受注を映しており、「いま入っている受注」は数四半期先の売上を映しています。Besiの直近5四半期の受注高は、2025年4-6月期の1億2,800万ユーロから、1億7,470万、2億5,040万、2億6,970万、そして2026年4-6月期の2億9,290万ユーロと、一貫して増え続けています。そして2025年7-9月期以降の4四半期は、受注高が売上高を上回り続けており、直近の4-6月期では受注高が売上高の約1.17倍です。売上高が7-9月期に底を打ったとき、受注高はすでに増加に転じていた。受注が売上の先行指標として機能している様子が、この5四半期の並びからは読み取れます。逆に言えば、2025年4-6月期に受注高(1億2,800万ユーロ)が売上高(1億4,810万ユーロ)を下回っていたことは、その後の減収を先に告げていた、とも読めます。

もう一つは、設備投資という需要の性格です。半導体産業の中で、設備投資は最も景気循環の影響を受けやすい部分だと言われています。チップの需要が減ったとき、チップメーカーが真っ先に削るのは、新しい工場や新しい装置への投資だからです。チップの需要が少し減るだけでも、装置の需要はそれよりはるかに大きく減りうる。2025年通期の売上高が前年比-2.7%の減収になり、その翌年の4-6月期には前年同期比で約1.7倍まで戻る、という振れ幅そのものが、この性格を裏付けているように思います。テーマは構造的、しかし装置メーカーの売上は「その構造的な需要が、いま設備投資として発注されているか」という、最も循環的な部分に乗っている。四社目のTower Semiconductorでは「工場の稼働率の波」が伸び率を左右すると整理しましたが、Besiはその工場が「装置を買うかどうか」という、稼働率よりさらに一段手前で、さらに振れの大きい判断に乗っていることになります。

7. 観点⑥ リスク要因——サイクル・技術採用の時期・地域集中、そして「経営陣自身が認める循環性」

リスクとして挙げられているのは、①半導体産業の設備投資サイクル(需要が減れば真っ先に削られるのが装置投資であり、直近の回復がいつまで続くかは業界全体の投資意欲に左右される)、②ハイブリッドボンディングの採用時期が顧客側の判断で先送りされるリスク(観点③で見たSamsung・SK Hynixに関する7月7日の報道、および観点②で見たApplied Materialsとの共同開発への依存)、③地域集中(売上の3割超が中国向けとされ、米国の対中輸出規制の動向によって販売できる装置の範囲が変わりうる政治リスク。同じオランダの半導体装置メーカーであるASMLが直面してきた輸出規制は主に前工程の露光装置(EUV/DUV)を対象としたもので、Besiが手がける後工程の組立装置とは規制の性質が異なりますが、米商務省(BIS)は2024年末、後工程の先端パッケージング装置についても中国向け輸出規制を拡大しており、Besiにとっても無関係ではありません)、④高いとされるバリュエーション、⑤株価の変動の大きさ(52週で3倍超の値幅、6月半ばの高値から4割ほどの下落)、といった点です。

外部の評価も紹介しておきます。stockanalysis.comによれば、この会社を担当する23人のアナリストのうち「買い」推奨が多数で、平均目標株価は296.57ユーロ(9月4日終値から+50.8%の水準)とされています。一方、KBC Securitiesは2026年6月26日に、目標株価を150ユーロから225ユーロへ引き上げながら、投資判断を「Hold」から「Reduce」へ格下げしました。目標株価を上げつつ判断を下げる、という一見ねじれた組み合わせは、当時の株価が目標を大きく上回っていたためと読めます。その後、株価が格下げ以降33%下落したことを受けて、8月5日に「Reduce」から「Hold」へ格上げ(目標株価は225ユーロで据え置き)しています。KBCは、メモリ市場でのハイブリッドボンディングの採用が想定より遅く、狭い範囲にとどまる可能性を指摘したと報じられています。これは外部の評価の紹介であって、私の見立てではありません。

そして、今回どうしても書いておきたいのが、経営陣自身の発言です。CEOのRichard Blickman氏は、7月23日の4-6月期決算説明会で業界の循環性について問われた際、この業界が循環的であり続けることは避けられず、顧客・業界全体の需要サイクルに従うしかない、過剰生産能力に向かっているかどうかは時間が経てばわかる、という趣旨の発言をしたと報じられています(発言は英語のためこの記事では意訳し、逐語的な引用ではありません)。30年以上この会社を率いてきた経営者が、売上・利益ともに大きく伸びた四半期決算を発表した同じ席で、サイクルの存在と過剰生産能力の可能性を否定しなかった。これは会社の弱さの告白ではなく、装置メーカーの経営者として当然の認識なのだと思いますが、投資家がこの会社を読むときの前提として、非常に重い一言だと受け止めています。

このうち、私が特に重く見ておきたいのは①と②の組み合わせです。①のサイクルは、装置メーカーであれば誰も逃れられない、いわば商売の地形です。②のハイブリッドボンディングの採用時期は、その地形の上で、この会社が「次の柱」として建てようとしてきたものが、顧客の判断一つで数年単位で前後しうる、という話です。両方が同時に不利な方向へ動けば、受注が細り、売上が数四半期遅れて落ち、しかも次の柱の立ち上がりも遠のく、という形になります。逆に両方が有利に動けば、その反対が起きます。装置メーカーの業績は、良いときも悪いときも、チップメーカー自身より振れが大きくなりがちで、株価がそれを先取りして動くため、52週で3倍超という値幅になった。前回のCredoが「決算の内側」の論点で株価が下がったのに対し、Besiは「決算書には載らない、顧客の技術ロードマップ」という外側の論点で株価が下がった。そして経営陣自身がそのサイクル性を否定しない。それが、今回の観点⑥の読みどころだと思います。

8. 観点⑦ 定量データ(参考)

数字は最後に、時点を明記して補助的に置きます。以下はいずれも公表資料等にもとづく値で、冒頭で断ったとおり、このシリーズで初めてユーロ表記になります。直近5四半期の売上高・純利益(利益率)・受注高を並べた推移表を用意しました。売上高が2025年7-9月期を底にV字で回復していること、純利益率がその底の19.0%から直近の35.6%まで上がっていること、そして受注高が5四半期にわたって一貫して増え続け、7-9月期以降の4四半期は受注高が売上高を上回り続けている(直近では約1.17倍)ことを、一つの表の中で眺めてみてください。売上高の列だけを見ると「一度落ちて戻った」形ですが、受注高の列を横に並べると「売上が落ちている間も受注は増えていた」ことが見えてきます。装置メーカーの決算を読むときは、売上高と受注高の二列を必ず並べる、というのが今回の記事で加わった目盛りです。あわせて、2025年通期の売上高5億9,130万ユーロ(前年比-2.7%)・純利益1億3,160万ユーロ・粗利益率63.3%・営業利益率29.3%・純利益率22.3%、1株1.58ユーロの2025年配当提案、2026年7-9月期のガイダンス(売上高2億7,490万〜2億8,740万ユーロ相当・粗利益率63〜65%)、中国向け売上が3割超という地域集中の数字(観点③参照)、そして3週間で約15.8%という時価総額の変化も、表の中で改めて確認していただければと思います。

四半期ごとの財務推移(2025年4-6月期〜2026年4-6月期)
四半期売上高純利益(利益率)受注高
2025年4-6月期1億4,810万ユーロ3,210万ユーロ(21.6%)1億2,800万ユーロ
2025年7-9月期1億3,270万ユーロ2,530万ユーロ(19.0%)1億7,470万ユーロ
2025年10-12月期1億6,640万ユーロ4,280万ユーロ(25.7%)2億5,040万ユーロ
2026年1-3月期1億8,490万ユーロ5,160万ユーロ(27.9%)2億6,970万ユーロ
2026年4-6月期2億4,990万ユーロ8,900万ユーロ(35.6%)2億9,290万ユーロ

受注高は2025年4-6月期こそ売上高を下回っていましたが(その後の減収を先に告げていたとも読めます)、2025年7-9月期以降の4四半期は一貫して売上高を上回り続けており、直近では売上高の約1.17倍です。装置メーカーでは受注高が売上の先行指標になりうる、という点にご留意ください。

業績サマリー(2026年4-6月期実績)
項目実績値前年同期比・備考
売上高2億4,990万ユーロ+68.7%
純利益8,900万ユーロ(利益率35.6%)前年同期3,210万ユーロ(21.6%)
受注高2億9,290万ユーロ+128.8%

2026年7-9月期のガイダンスは売上高が4-6月期比+10〜15%(2億7,490万〜2億8,740万ユーロ相当)、粗利益率63〜65%です。中国向け売上は3割を超えるとされています(観点③参照)。

時価総額の推移
時点時価総額備考
2026年8月14日約188.7億ユーロ株価€233.50
2026年9月4日約158.9億ユーロ株価€196.65

この時価総額は、株価に発行済株式数80.82百万株を掛けて算出した値です(期間中の株式数はほぼ一定と仮定)。アグリゲーターサイトによって時価総額の表示が食い違うことがあったため、この記事の中で一貫した物差しとして自前で算出しています。

€188.7億 2026年8月14日 €158.9億 株価€196.65

時価総額(単位: 億ユーロ)の推移。3週間ほどで約15.8%の下落となりました。6月半ばの52週高値(328.40ユーロ)からは4割ほど下げていますが、年初来では依然としてプラス圏にあるとされています。時価総額は日々動く値であり、掲載時点で大きく変わっている可能性があります。スケールは会社ごとに調整しています。

9. 結びに——米国株の六社目を終えて、そして六社を並べて

Besiを7つの観点で眺めてみて残った印象は、「売上高の一列だけを見ていると、この会社の時間はいつも数四半期ずれて見える」というものでした。売上が落ちている間も受注は増えていて、売上が大きく戻ったとき、株価はすでに次の世代の技術採用時期を織り込んで下げ始めていた。装置メーカーの決算は、受注高という先行指標と、顧客の技術ロードマップというさらに先の情報を横に置かないと、いま見えている数字が「過去の結果」なのか「これからの兆し」なのかを取り違えやすい、と感じました。そして経営陣自身が、その循環性を否定しない。これは会社の良し悪しの判定ではなく、調査時点で私が受けた印象にすぎません。

米国株の六社を並べてみると、Ambiq Microは「柱がまだ細い会社」、MaxLinearは「柱を組み替えている途中の会社」、Astera Labsは「柱は太いが、その柱を支える地面がごく狭い会社」、Tower Semiconductorは「地面は広いが、その上に新しく大きな柱を建てようとしている会社」、Credo Technologyは「柱は太く、地面は狭く、しかもその地面が四半期ごとに動きうる会社」でした。そしてBesiは、「柱でも地面でもなく、その柱を建てるための道具を作っている会社」だったように思います。道具を作る会社は、誰かが柱を建てようとするときに最初に呼ばれ、誰かが建てるのをやめたときに最初に帰されます。いまは多くの会社が柱を建てようとしていて、注文は積み上がっています。しかし「次の柱にどの道具を使うか」は、道具を作る側ではなく、建てる側が決めます。注文の厚さに安心するのか、その注文がいつ薄くなりうるかに慎重になるのか、どちらの目で見るかで印象がかなり変わる会社だと思います。

この六社は、結果として、AIデータセンターという一つの需要を、それぞれ違う場所から眺める並びになりました。チップを設計する会社が四つ、それを製造する会社が一つ、その工場に装置を納める会社が一つ。同じ需要に乗っていても、設計する会社は「顧客が誰か」に、作る会社は「工場がどれだけ埋まっているか」に、装置を作る会社は「顧客がいつ投資するか」に、それぞれ業績を左右されていました。7つの観点という同じ物差しを六回あてて分かったのは、物差しは同じでも、目盛りの読み方は商売の形ごとに変わる、ということだったと思います。売上の伸び率、粗利益率、顧客集中度、長期目標——どれも単独では意味を持たず、「この商売の形で、この数字はどう読むべきか」という問いと一緒に見たときに、初めて何かを教えてくれる。六社目を終えて、私の手元に残ったのはその実感です。

繰り返しになりますが、この記事はどの会社についても売買を勧めるものではなく、私自身の「読み方の練習」の記録です。数字はすべて公開情報をもとにしていますが、解釈の部分は私の見立てにすぎません。米国株シリーズは、この六社目でひとまず区切りとします。

参照元(2026年9月6日確認)

  1. 2026年第2四半期決算(2026年7月23日発表): Besi公式ニュースリリース「Announces Q2-26 and H1-26 Results」
  2. 四半期推移(2025年Q2〜Q4・2026年Q1): Besi公式リリース(2025年Q2)同(Q3)同(Q4・2025年通期)同(2026年Q1)
  3. 2030年目標引き上げ(2025年6月12日Investor Day): Besi公式リリース「Increases Financial Targets at 2025 Investor Day」
  4. 中国向け売上比率・地域別内訳(情報源により幅あり、この記事では「3割超」と幅を持たせて表記): Statista「Besi revenue worldwide by region」、業界報道各種
  5. Applied Materialsの出資・ハイブリッドボンディング協業(2025年4月14日発表): Applied Materials公式ニュースリリース「Applied Materials Announces a Strategic Investment in BE Semiconductor Industries」
  6. ハイブリッドボンディング採用時期の見直し報道(Samsung・SK Hynix、2026年7月7日): Investing.com「Why is BE Semiconductor Industries stock down today?」
  7. CEO発言(循環性、2026年7月23日決算説明会): 決算説明会報道(Investing.com等)
  8. アナリスト評価・KBC Securitiesの格付け変更: StockAnalysis.com「BE Semiconductor Industries (BESI)」、KBC Securities関連報道(Belegger.nl等)
  9. 会社概要・沿革・IPO: Wikipedia「Besi」
  10. 成長段階の定性分析(情報整理): 筆者による個人調査(2026年8月15日実施、Perplexity等を用いた公開情報の収集・整理)

このシリーズで扱った米国株6社を7つの観点で並べて比較する

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