ひとことで言うと
Credo Technologyは、AIデータセンターの中でGPUやサーバー同士をつなぐ高速接続用の半導体・ケーブルを設計するファブレス企業です。売上は前年同期比+114.7%と絶好調で、利益率も高水準を保っていますが、決算発表を含む週のうちに株価は約3割下落しました。理由は、GAAPベースの粗利益率が低下し、研究開発費などの営業費用が前年同期からほぼ倍増したこと、そして上位2社だけで売上の7割を占めるという極端な顧客集中です。「決算の数字が良い」ことと「株価が上がる」ことは必ずしも一致しない、という事例として読んでいきます。
米国株シリーズはこれで5社目です。ここまで4社を読んできて、「良い数字の会社ほど、数字の外側に論点が集まる」ということを何度か書いてきました。今回はその延長線上で、良い数字の「外側」だけでなく「内側」にも論点がある会社を選びました。
「誰に・何を・どう稼ぐか」を単純化した図です。詳細は観点②③で補います
今回は、「良い数字」と「悪い株価反応」が同居する決算を同じ7つの観点で分解します
| ① 経路 | AEC(ZeroFlap)という一本の柱で急成長、光接続(DSP・PIC・ZeroFlap Optics)という新しい柱を計画中(2027会計年度に6億ドル超見込み、実績ではなく会社の見通し) |
|---|---|
| ② 障壁 | SerDes技術を共通基盤に複数製品へ横展開、non-GAAP粗利益率68.0%。ただし他のファブレス設計会社・大手半導体メーカーとの競合、ハイパースケーラーの内製化リスクあり |
| ③ 顧客 | 直近の10-Qで顧客A43%・顧客B28%、上位2社で売上の71%——54%だったAstera Labsを上回る集中度。しかも「最大顧客が誰か」は四半期ごとに変動すると会社自身が説明 |
| ④ 戦略 | GAAP粗利益率64.5%(前四半期68.2%から低下)、GAAP営業費用が前年同期比ほぼ倍増。光接続への先行投資と説明、次四半期もGAAP費用増加を予告 |
| ⑤ 特需/構造 | AIデータセンター内の接続需要自体は構造的、ただし伸び率は「一社ずつ順番に来る大型発注の波」に左右される |
| ⑥ リスク | 顧客集中(上位2社71%、過去には1社で67%)、GAAP費用増が一時的か恒常的か未確定、高いバリュエーション、競合・内製化、株価ボラティリティ(52週で3.6倍) |
| ⑦ 数字 | 売上4億7,900万ドル(+114.7%)、GAAP営業利益1億2,070万ドル(利益率25.2%)、non-GAAP営業利益2億3,060万ドル(利益率48.2%)、時価総額約320.6億ドル |
1. なぜ、米国株の五社目に「決算は良かったのに、株価が急落した会社」を選んだのか
Credo Technology Group Holding Ltd.(NASDAQ: CRDO)は、AIデータセンターやクラウドの中で、GPU・CPU・スイッチといった装置同士をつなぐ高速接続用の半導体を設計するファブレス企業です。2008年にLawrence Cheng氏(現CTO)とJob Lam氏(現COO)が創業し、2014年に社長として参画したBill Brennan氏が後にCEOとなって、2022年1月31日のIPO(公開価格1株10ドル、調達額2億ドル)を主導しました。法人としてはケイマン諸島籍ですが、本社機能はカリフォルニア州サンノゼに置かれています。会計年度は4月末〜5月上旬締めで、直近の決算は2027会計年度第1四半期(2026年8月1日締め)にあたります。株価は2026年9月4日の終値で170.57ドル、時価総額は約320億6,000万ドル(発行済株式数187.95百万株換算)です。8月14日の終値は259.90ドル(同約488億5,000万ドル)でしたから、3週間ほどで約34.4%の下落になります。このシリーズでこれまで最大の下落率はMaxLinearの26%でしたが、それを大きく上回る振れ幅です。52週の値幅は86.49ドルから308.67ドルで、安値と高値の間に3.6倍の開きがあり、IPO時の10ドルから見れば、一時は30倍を超える水準まで買われていたことになります。
この会社を五社目に選んだ理由は、9月1日に発表された決算と、その後の株価の動きが、一見すると噛み合っていないように見えたからです。売上高は4億7,900万ドルで前年同期比+114.7%、市場予想を上回り、7四半期連続で前年同期比3桁の成長が続いています。数字の表面だけを見れば「良い決算」です。ところが、決算発表を含むその週のうちに、株価は約29.5%下落しました。これは先ほど見た「3週間で34.4%」という下落の内訳にあたり、決算発表の直後に集中して生じた分です。決算の良し悪しを売上高の伸び率だけで判断していると、こうした出来事の理由が分からなくなります。何が「良い」と受け取られ、何が「悪い」と受け取られたのか。前回のTower Semiconductorは「作る会社」の視点で顧客分散や工場の投資を読みましたが、今回は再びファブレスの「設計する会社」に戻り、良い数字と悪い株価反応が同居する決算を分解する練習として、この会社を読んでみたいと思います。なお、GAAP(米国会計基準にもとづく公式の数字)とnon-GAAP(株式報酬費用などの非現金項目を除いて会社が独自に示す数字)の差は、この記事全体を通じて何度も出てきます。両者の違いをどう読むかが、今回の記事の中心的なテーマです。
2. 観点① 成長の経路——AECという「一本の太い柱」から、光接続の三本目・四本目の柱へ
Credoの主力事業は、当初はAEC(Active Electrical Cable、ブランド名ZeroFlap)でした。AECとは、ケーブルの両端に信号を補正する半導体を組み込んだ銅線ケーブルで、AIサーバーのラック内やラック間で、光ファイバーより安価に、通常の銅線ケーブルより長く・確実に高速信号を届けるための製品です。AIデータセンターではGPU同士をつなぐ配線の本数が膨大になるため、一本一本のケーブルの信頼性と消費電力が、そのまま運用コストに直結します。ZeroFlapという名前は「信号の途切れ(フラップ)をゼロにする」という意味で、この製品がハイパースケーラー(自前で大規模なクラウド基盤を持つ事業者)に採用されたことが、ここ2年の急成長の土台になっているようです。
その上で、会社はいま製品の幅を広げようとしています。光接続用のDSP(光信号を電気信号に変換する際の処理を担う半導体)、シリコンフォトニクスPIC(光の送受信を一枚のチップに集積した部品)、そしてZeroFlap Opticsという光版のケーブル製品の三つで、2027会計年度の光接続関連売上を6億ドル超、三カテゴリーそれぞれが1億ドル超に達する、という見通しを会社は示しています。これにリタイマー(長距離伝送で劣化した信号を整え直す半導体)、PCIe接続製品、SerDes(高速シリアル伝送)IPのライセンス事業が加わります。四半期ごとの売上高は、2026会計年度第1四半期の2億2,310万ドルから、第3四半期に4億700万ドルへ跳ね上がり、直近の2027会計年度第1四半期には4億7,900万ドルに達しました。売上高が1年で2倍以上になる過程で、AECという一本の柱に加えて光接続という新しい柱が育ちつつある、というのが会社側の説明する成長の経路です。ただし、光接続の6億ドル超という数字は会社の見通しであって、実績ではまだありません。柱が本当に太くなるかどうかは、これから四半期ごとに確かめていく種類の話だと思います。
3. 観点② 差別化と参入障壁——「電気でどこまで届くか」の専業と、大手半導体メーカーの存在
この会社の差別化は、AIデータセンター内の接続という、比較的狭い領域に絞り込んで、その領域で必要な半導体設計をSerDesという基礎技術から自前で積み上げている点にあるようです。SerDesは高速信号を送受信するための回路で、Credoはこれを自社IPとして持ち、AEC・リタイマー・光DSPといった製品群すべての共通の土台にしています。同じ基礎技術を複数の製品に横展開できるため、新しい製品カテゴリーへの参入コストが相対的に低い、というのが会社側の説明です。また、AECはケーブルという「完成品」の形で納められるため、顧客はチップを買って自分でケーブルを組み立てる必要がなく、採用のハードルが低いという面もあると読めます。いったんラックの設計に組み込まれれば、次の世代の設計まで置き換えにくい、という乗り換えコストが働く構図があります。
一方で、この障壁が絶対でないことも書いておきたいと思います。高速接続用の半導体は、他のファブレス設計会社や、規模で大きく上回る大手半導体メーカーも手がけている分野で、特に光DSPのように既存の大手が長く取り組んできた領域では、Credoは後発の立場になります。ハイパースケーラー自身が接続機能を内製化する可能性も、この分野の会社に共通するリスクです。数字の側では、2027会計年度第1四半期のnon-GAAP粗利益率は68.0%で、Astera Labsの73.7%やAmbiq Microの水準と並ぶ「設計する会社」らしい高い利益率です。ただし、GAAPの粗利益率は64.5%で、前四半期の68.2%、前年同期の67.4%から低下しています。会社の説明では製品構成の変化などが要因とされているようですが、AECのようなケーブル完成品は、チップ単体のライセンスや販売より材料費の比率が高くなりがちで、売上に占める製品の構成が変われば粗利益率も動く、という構造は頭に置いておく必要がありそうです。差別化が「狭い領域での専業」にある以上、その領域の製品構成が利益率を左右する、という点は、この会社を読むときの一つの目盛りになると思います。
4. 観点③ 顧客基盤の変化——上位2社で売上の71%、そして「誰が最大顧客か」が四半期ごとに変わる
ここが、今回の記事でいちばん丁寧に見ておきたい場所です。2027会計年度第1四半期の10-Q(四半期報告書)では、「顧客A」(社名非開示)が四半期売上の43%、「顧客B」が28%を占めていると開示されています。上位2社だけで売上の71%です。前年同期(2026会計年度第1四半期)は顧客Aが50%・顧客Bが35%だったので、集中度そのものはやや緩んだものの、依然として上位2社で7割超という水準です。さらに時点を遡ると、2025会計年度通期の10-K(年次報告書)では特定の1社が売上の67%、同年度の第4四半期には別の1社が61%(このほか2社がそれぞれ12%・11%)を占めていました。2026会計年度通期の10-Kでは、上位10社で売上の約90%、うち2社がそれぞれ10%以上という開示になっています。そして会社自身が「収益が集中する顧客の顔ぶれは、その顧客が最近どれだけの量・価格で製品を購入したかによって、期をまたいで変動する」という趣旨のリスク要因を開示しています。つまり、単に「少数の顧客に依存している」というだけでなく、「その顔ぶれが四半期ごとに入れ替わりうる」という、二重の意味で読みにくい顧客構造です。なお、証券会社のレポート等にはAmazonやMicrosoft、xAIといった大手をCredoの主要顧客として挙げるものがありますが、これは会社の公式な開示ではなく、外部の分析にとどまる点は、はっきり書いておきたいと思います。
米国株編の三社目で読んだAstera Labsは、上位2社で売上の54%(顧客A29%・顧客B25%)という構造で、「伸び率の裏側で、少数の顧客に依存している」ことを論点にしました。Credoはそれよりさらに一段極端で、上位2社だけで売上の71%を占め、過去には1社で67%という時点もありました。ハイパースケーラー向けの設計会社が少数の顧客に集中するのは、ビジネスモデルの構造的な帰結だと前回までに整理してきましたが、Credoのように「最大顧客の顔ぶれが四半期ごとに変わりうる」となると、また別の読み方が必要になります。好意的に読めば、一つの顧客が発注を絞っても、別の顧客がその四半期の柱になれるだけの顧客の広がりがある、という見方ができます。慎重に読めば、ハイパースケーラーの投資は四半期単位で大きく動くため、その波が一社ずつ順番にこの会社の業績を揺らしている、という見方もできます。どちらの読み方が正しいかは、いまの時点では判断できないと思います。
ただ一つ言えそうなのは、この顧客構造が、9月の株価急落の背景の一つとして報道で挙げられていた、ということです。上位2社で四半期売上の7割を占める構造では、その顧客が次の設計世代で調達先を変えたり、投資のペースを緩めたりした場合の影響は、非常に大きいものになります。「7四半期連続の3桁成長」という表面の数字がどれほど良くても、その成長を支えている地面の狭さと、その地面が四半期ごとに動きうることを、市場は同時に見ていた。それが、良い決算に対して株価が素直に反応しなかった一因だったのだろうと読んでいます。
5. 観点④ 経営陣の戦略——GAAP粗利益率の低下と営業費用の倍増を、どう読むか
経営陣の戦略を読む上で、今回はどうしても9月1日の決算の中身に立ち入る必要があります。売上高は4億7,900万ドル(前年同期比+114.7%、前四半期比+9.6%)で、市場予想を上回りました。non-GAAPベースでは粗利益率68.0%、営業利益2億3,060万ドル(利益率48.2%)、純利益2億3,630万ドル、希薄化後EPS1.20ドルで、こちらも予想を上回っています。ここまでは「良い決算」です。ところがGAAPベースで見ると、粗利益率は前四半期の68.2%から64.5%に低下し、営業費用は前年同期の8,960万ドルから1億8,840万ドルへほぼ倍増、前四半期の1億4,220万ドルと比べても3割ほど増えました。内訳は研究開発費が1億1,450万ドル(前四半期9,050万ドル)、販管費が7,390万ドル(同5,170万ドル)です。その結果、GAAP営業利益は1億2,070万ドル、営業利益率は25.2%となり、前四半期の35.7%から10ポイント以上低下しました。売上が増えたのに、GAAPの営業利益は前四半期の1億5,580万ドルから減っている。報道によれば、市場が反応したのはこの部分で、粗利益率の低下と営業費用の急増が「成長の質」への懸念として受け取られ、すでに高かったバリュエーションと顧客集中への警戒感が重なって、決算発表を含む週のうちに株価が約29.5%下落した、とされています。
では、経営陣はこの費用増をどう位置づけているのか。会社側の説明では、研究開発費の増加は光接続(DSP・シリコンフォトニクス・ZeroFlap Optics)や次世代製品への先行投資であり、2027会計年度に光接続関連で6億ドル超の売上を見込むための布石、という趣旨のようです。実際、次の第2四半期(2026年10月31日締め)のガイダンスでも、売上高5億2,500万〜5億3,500万ドルに対して、GAAP営業費用は1億9,900万〜2億400万ドルと、さらに増える見通しが示されています。GAAP粗利益率のガイダンスも62.9〜64.9%で、直近の64.5%からの回復を織り込んでいません。つまり経営陣は、費用が高止まりし、GAAP粗利益率も当面いまの水準にとどまることを承知の上で、それでも投資を続ける、という判断をしていると読めます。
ここで一つ、GAAPとnon-GAAPの差にも触れておきたいと思います。同じ第2四半期ガイダンスで、non-GAAP営業費用は1億〜1億500万ドルとされていて、GAAPとの間に約1億ドルの開きがあります。四半期の推移を見ても、GAAP営業利益率が2026会計年度第3・第4四半期の36〜37%台から直近の25.2%へ落ちている一方、non-GAAP営業利益率は43〜50%台で推移していて、両者の差は四半期を追うごとに広がっています。non-GAAPだけを見ていれば「利益率は高水準を保っている」と読めますし、GAAPだけを見れば「利益率が急に落ちた」と読めます。どちらか一方が正しいというより、経営陣が示す「先行投資」という説明が、GAAPの数字でいつ回収され始めるのかを、これから四半期ごとに確かめていく必要がある、というのが、この観点での私の受け止めです。
6. 観点⑤ 特需か、構造的な成長か——需要は構造的、ただし「一社ずつ順番に来る波」に乗っている
AIデータセンターの中で、装置同士をつなぐ配線の本数と速度が増え続け、電気から光への置き換えが進んでいく、というテーマ自体は構造的なものと見られています。これはこの米国株編で読んできた会社に共通する背景で、Astera Labsは「つなぎ目」、Tower Semiconductorは「光の半導体を作る側」、そしてCredoは「配線そのもの」と、それぞれ同じ需要の別の場所に立っています。Credoの7四半期連続の3桁成長は、この構造的な需要の初期段階で、AECという具体的な製品がハイパースケーラーの設計に採用された結果だと読めます。第2四半期のガイダンスが5億2,500万〜5億3,500万ドルで、達成すれば四半期として再び過去最高になることも、需要の勢いがまだ続いていることを示しているようです。
ただし、この会社の伸び率が「市場全体の成長率」をそのまま写しているかというと、そうではないように思います。観点③で見たとおり、四半期売上の7割超を上位2社が占める構造である以上、Credoの四半期ごとの数字は、特定のハイパースケーラーが「いつ、どの規模でデータセンターの配線を発注するか」という個別の判断に、かなり直接的に左右されます。市場が構造的に伸びていても、ある顧客の投資が一巡して次の顧客の投資がまだ始まっていない四半期には、数字が踊り場に入る可能性があります。テーマは構造的、しかし伸び率は「一社ずつ順番に来る大型発注の波」に乗っている。これまでは「少数の顧客の設計サイクル」が伸び率を左右すると整理してきましたが、Credoではそれがさらに「どの顧客の波がいま来ているか」という、四半期単位で入れ替わりうる要因になっていて、外からはいっそう読みにくい、と考えておきたいと思います。
7. 観点⑥ リスク要因——顧客集中・費用の性質・バリュエーション、そして「良い数字」に隠れる論点
リスクとして挙げられているのは、①顧客集中(直近の10-Qで上位2社が四半期売上の71%を占め、過去には1社で67%に達した時点もあること。その顧客が発注を減らせば業績への影響が非常に大きい)、②GAAP営業費用の急増が、光接続への一時的な先行投資なのか、それとも売上の拡大に伴って恒常的に増え続ける構造的な費用なのかが、まだ見極めにくいこと、③急落後もなお高いとされるバリュエーション、④高速接続半導体分野における他のファブレス設計会社や大手半導体メーカーとの競合、および顧客による内製化の可能性、⑤株価のボラティリティが非常に高いこと(52週で3.6倍の値幅、直近3週間で34%超の下落)、といった点です。なお、決算後にはBank of Americaが目標株価を340ドルから275ドルへ、JPMorganが335ドルから310ドルへ、それぞれ引き下げています(いずれも「買い」相当の評価は維持したままの引き下げです)。良い数字が出た決算のあとに目標株価が下がる、という組み合わせ自体が、市場の受け止め方を映しています。これは外部の評価の紹介であって、私の見立てではありません。
このうち、私が特に重く見ておきたいのは①と②の組み合わせです。Astera Labsのときに、「良い数字の会社ほど、数字の外側に論点が集まる」と書きました。Credoはその一歩先にいて、数字の外側(顧客集中)に加えて、数字の内側にも論点が出てきています。GAAPとnon-GAAPの営業利益率の差が四半期ごとに広がっていること、GAAP粗利益率が3四半期前より低い水準にあることは、売上高の伸び率だけを見ていると気づかない種類の変化です。そしてこの内側の変化は、外側の顧客集中と無関係ではありません。上位2社で7割を占める構造で、その顧客向けの製品構成が粗利益率を動かし、その顧客の次の世代の設計を取りにいくために研究開発費を積み増している、と読めるからです。顧客集中と費用増は、別々のリスクというより、同じ一つの構造の内側と外側なのだと思います。「決算は良かったのに株価が急落した」という出来事は、市場がこの両面を同時に見ていたことの表れだったのだろう、というのが、今回の観点⑥の読みどころです。
8. 観点⑦ 定量データ(参考)
数字は最後に、時点を明記して補助的に置きます。以下はいずれも公表資料等にもとづく値で、これまでの米国株四社に続いて米ドル表記です。直近5四半期の売上高・GAAP営業利益・non-GAAP営業利益を並べた推移表を用意しました。5四半期連続の増収で売上高が2倍以上になっていること、その一方でGAAP営業利益率が2026会計年度第3・第4四半期の36〜37%台をピークに直近で25.2%まで低下していること、non-GAAP営業利益率は43〜50%台で推移していてGAAPとの差が四半期を追うごとに広がっていることを、一つの表の中で眺めてみてください。あわせて、GAAP粗利益率64.5%とnon-GAAP粗利益率68.0%の並び(観点④参照)、上位2社で四半期売上の71%という顧客集中の数字(観点③参照)、そして3週間で約34.4%という時価総額の変化も、表の中で改めて確認していただければと思います。
| 四半期 | 売上高 | GAAP営業利益(利益率) | non-GAAP営業利益(利益率) |
|---|---|---|---|
| 2026会計年度Q1(2025年8月2日締め) | 2億2,310万ドル | 6,070万ドル(27.2%) | 9,620万ドル(43.1%) |
| 2026会計年度Q2(2025年11月1日締め) | 2億6,800万ドル | 7,880万ドル(29.4%) | 1億2,410万ドル(46.3%) |
| 2026会計年度Q3(2026年1月31日締め) | 4億700万ドル | 1億4,960万ドル(36.8%) | 2億180万ドル(49.6%) |
| 2026会計年度Q4(2026年5月2日締め) | 4億3,700万ドル | 1億5,580万ドル(35.7%) | 2億1,670万ドル(49.6%) |
| 2027会計年度Q1(2026年8月1日締め) | 4億7,900万ドル | 1億2,070万ドル(25.2%) | 2億3,060万ドル(48.2%) |
GAAP営業利益率は2026会計年度第3・第4四半期の36〜37%台をピークに直近で25.2%まで低下している一方、non-GAAP営業利益率は43〜50%のレンジで推移し、直近も48.2%と大きくは崩れていません。両者の差は四半期を追うごとに広がっています。
| 項目 | 実績値 | 前年同期比・備考 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4億7,900万ドル | +114.7% |
| GAAP粗利益率 | 64.5% | 前四半期68.2%、前年同期67.4%から低下 |
| GAAP営業利益 | 1億2,070万ドル(利益率25.2%) | 前四半期1億5,580万ドル(35.7%)から減少 |
| non-GAAP営業利益 | 2億3,060万ドル(利益率48.2%) | 前年同期9,620万ドル(43.1%) |
2027会計年度第2四半期のガイダンスは売上高5億2,500万〜5億3,500万ドル、GAAP営業費用は1億9,900万〜2億400万ドル(non-GAAP営業費用は1億〜1億500万ドル)です。直近の10-Qでは、上位2社が四半期売上の71%を占めています(観点③参照)。
| 時点 | 時価総額 | 備考 |
|---|---|---|
| 2026年8月14日 | 約488.5億ドル | 株価$259.90 |
| 2026年9月4日 | 約320.6億ドル | 株価$170.57 |
この時価総額は、株価に発行済株式数187.95百万株を掛けて算出した値です(期間中の株式数はほぼ一定と仮定)。アグリゲーターサイトによって時価総額の表示が食い違うことがあったため、この記事の中で一貫した物差しとして自前で算出しています。
時価総額(単位: 億ドル)の推移。3週間ほどで約34.4%の下落となり、これまでのシリーズで最大の下落率です。9月1日の決算発表後、GAAP粗利益率の低下・営業費用の急増・顧客集中への懸念、さらにその後のアナリスト目標株価引き下げも重なって株価が下落したとされています。時価総額は日々動く値であり、掲載時点で大きく変わっている可能性があります。スケールは会社ごとに調整しています。
9. 結びに——米国株の五社目を終えて
Credo Technologyを7つの観点で眺めてみて残った印象は、「決算の良し悪しは、売上高の伸び率だけでは決まらない」というものでした。前年同期比+114.7%、7四半期連続の3桁成長、市場予想を上回る売上とnon-GAAPのEPS。どれも会社が前に進んでいることを示す材料だと思います。ただ、同じ決算の中に、GAAP粗利益率の低下、営業費用のほぼ倍増、GAAP営業利益の前四半期比での減少、そして上位2社で7割超という顧客集中が同居していて、市場はそちらの側に反応しました。良い数字と悪い株価反応が同時に起きた理由は、片方が間違っていたからではなく、両方が同じ決算の別の面を見ていたからなのだろうと思います。これは会社の良し悪しの判定ではなく、調査時点で私が受けた印象にすぎません。
米国株の五社を並べてみると、Ambiq Microは「柱がまだ細い会社」、MaxLinearは「柱を組み替えている途中の会社」、Astera Labsは「柱は太いが、その柱を支える地面がごく狭い会社」、Tower Semiconductorは「地面は広いが、その上に新しく大きな柱を建てようとしている会社」でした。そしてCredoは、「柱は太く、地面は狭く、しかもその地面が四半期ごとに動きうる会社」だったように思います。狭い地面の上に、光接続という次の柱を建てるための費用を、いままさに積み増している途中にある。成長の速さに目を奪われるのか、その成長が立っている地面の狭さと動きやすさに慎重になるのか、どちらの目で見るかで印象がかなり変わる会社だと思います。そして、「良い決算」という言葉を使う前に、GAAPとnon-GAAPのどちらの数字で、売上と利益のどちらを見て、そう言っているのかを一度確かめる、というのは、五社目で改めて加わった目盛りでした。
繰り返しになりますが、この記事はどの会社についても売買を勧めるものではなく、私自身の「読み方の練習」の記録です。数字はすべて公開情報をもとにしていますが、解釈の部分は私の見立てにすぎません。次回以降も米ドル表記のまま、残りの1社を同じ観点で読んでいきます。
参照元(2026年9月6日確認)
- 2027会計年度第1四半期決算(2026年9月1日発表): Credo Technology公式ニュースリリース(SEC EDGAR 8-K exhibit)「Reports First Quarter of Fiscal Year 2027 Financial Results」
- 四半期推移(2026会計年度Q1・Q2・Q3・Q4): SEC EDGAR(2026会計年度Q1決算 8-K exhibit)、同(Q2)、同(Q3実績を含むQ4決算資料)
- 顧客集中(直近10-Q): SEC EDGAR Form 10-Q(2026年8月1日締め)
- 顧客集中(2025・2026会計年度10-K): SEC EDGAR Form 10-K(2025会計年度)、同(2026会計年度)
- 会社概要・沿革・IPO: Wikipedia「Credo Technology Group」
- 株価・時価総額: StockAnalysis.com「Credo Technology Group (CRDO)」
- アナリスト目標株価の引き下げ(Bank of America・JPMorgan): Investing.com「BofA cuts Credo Tech stock price target on valuation reset」、同「JPMorgan cuts Credo Tech stock price target on optical ramp outlook」
- 決算発表日・株価急落の経緯: The Motley Fool「Why Credo Technology Stock Plunged 20% Today」、Seeking Alpha「Credo Technology shares fall as margin pressure overshadows earnings beat」
- 成長段階の定性分析(情報整理): 筆者による個人調査(2026年8月15日実施、Perplexity等を用いた公開情報の収集・整理)
続き: 米国株編6本目・最終回、BE Semiconductor Industriesを例に「装置を作る会社」という視点を読む(シリーズ13本目)