このブログでは、証券口座の選び方や、NISAとiDeCoの違いについて、制度の側から整理する記事を書いてきました。ただ、書きながらどこか引っかかっていたことがあります。制度の話はできても、「自分はどうやってそこを通り抜けたのか」を、まだ一度も書いていなかったことです。
以前の投資日記で、「現在は、NISA制度を使って投資信託を積み立てています」と書きました。あの一文の手前には、口座を開くまでに何度も足踏みした時間があります。今回は、その足踏みの部分を書き残しておこうと思います。振り返ってみると、私にとっては、始めてからよりも、始める前のほうがずっと大変でした。
1. 選択肢が多すぎて、動けなかった
最初につまずいたのは、証券会社の多さでした。調べれば調べるほど、名前が増えていく。手数料の表を見比べ、ポイントの仕組みを読み、比較記事を何本か開いて、そのたびに「どこも似ているようで、どこか違う」という印象だけが残りました。違いは分かるのに、その違いが自分にとってどれくらい重要なのかが、分からない。
そうして比較を続けているうちに、いつの間にか「比べること」自体が目的になっていたように思います。決めるための情報を集めているはずが、集めるほど決められなくなる。あの頃の自分は、たぶん、選択肢を減らしたいのではなく、選ばなくてよい理由を探していたのだと感じます。
もうひとつ、正直に書いておくと、手続きそのものが面倒でした。本人確認の書類を用意して、マイナンバーを登録して、写真を撮って、審査を待つ。ひとつひとつは大したことではないのに、頭の中でその全部をまとめて想像すると、急に重たいものに感じられました。「今日はいいか」と先送りにした日が、何日あったのか、もう数えられません。
ただ、すべてに迷ったわけではありません。NISAと並行してiDeCoも少し調べたのですが、こちらは比較的早い段階で見送ることにしました。理由ははっきりしていて、iDeCoは原則60歳になるまで資産を引き出せない、という制約がひっかかったからです。この先の暮らし方や、何が起こるか分からないことを考えると、長期間まったく動かせないお金を作ることに、当時の自分はまだ踏み切れませんでした。これは一般的な損得の話ではなく、あくまで自分の生活設計のなかでそう判断した、という記録です。
2. 決め手らしい決め手はなかった
結局、私は楽天証券に決めました。こう書くと何か明確な理由があったように見えるかもしれませんが、実際のところ、派手な決め手はありませんでした。普段の生活で使っているサービスと同じ系列で、画面の雰囲気にすでに慣れがあったこと。そして、これ以上比べ続けても答えは出ないと、ある日ふと諦めがついたこと。その程度です。
もしあのとき別の会社を選んでいたとしても、たぶん今と大きく違う場所にはいなかったはずです。証券口座の選び方については別の記事で一般的な話として整理しましたが、自分自身のことを振り返る限り、どこを選ぶかよりも「選ぶのをやめて決める」ことのほうが、私にはずっと難しかったのでした。
そして、口座が開いたあとにも、もうひとつの壁がありました。何を買えばいいのか、分からなかったのです。商品の一覧を開くと、また名前が並んでいる。今度は証券会社ではなく、投資信託の名前です。手数料の低さで選ぶのか、投資先の地域で選ぶのか、過去の成績で選ぶのか。判断の軸が自分の中にないまま画面を眺めていると、証券口座を選んでいたときと、まったく同じ景色が広がっていました。
最終的に私が選んだのは、毎月、決まった額を、自分が考え込まずに続けられる仕組みでした。ここで具体的な商品の話はしません。書きたいのは、何を選んだかではなく、あの迷いが、正解の商品を探すことではなく自分が続けられる形を決めることで、ようやく止まったという実感のほうだからです。
3. 始めてみて、感じていること
始めてからのことを、正直に書きます。ただし先に断っておくと、これから書く「増えた」という話は、相場に恵まれた時期に始めたからだ、という面が大きいという前提つきです。そのうえで書くと、資産は順調に増えたという実感があります。積み立てを設定して、あとはあまり触らないまま時間が経ち、ときどき口座を開くと、入れた額より少し多い数字が表示されている。その繰り返しでした。始める前にあれだけ足踏みしていた自分からすると、拍子抜けするほど静かな体験でした。
この実感には、もう少し丁寧に注意書きを付けておきたいと考えています。
ひとつは、時期の問題です。私が積み立てを始めたのは、比較的最近のことです。そしてこの数年、市場全体はかなり好調な局面が続いていました。このブログの「投資まわりのニュースまとめ」でも、主要な指数が最高値を更新し続けている環境について触れています。つまり、私が順調に増えたと感じているものの少なくない部分は、私の判断の結果というより、たまたま良い時期に乗った、という運とタイミングの要素で説明できてしまうのかもしれません。
もうひとつは、この先のことです。これまで増えたからといって、これからも同じように増え続ける保証はどこにもありません。下がる局面は当然あるでしょうし、そのときに口座を開いたら、入れた額より少ない数字が表示されることも、普通に起こり得ることだと考えています。まだ私は、そういう時期を長く経験していません。だから、いまの実感は「良い時期しか知らない人の感想」として読んでもらうのが正確だと思います。
そして、そもそも積立という仕組みは、値動きに一喜一憂しないために、淡々と続けること自体に意味がある設計だと理解しています。短い期間の結果だけを見て「始めれば増える」と言い切ってしまうのは、その仕組みの本来の姿から、少しずれてしまう気がします。私がここで書いておきたいのは、増えたという結果より、触らずに続けられている、という状態のほうです。
4. あの頃の自分に、言うとしたら
あの頃の自分に、何か声をかけられるとしたらと考えることがあります。ただ、口座を開くべきだったとも、もっと早く始めるべきだったとも、今の私には言えません。当時の迷いには当時なりの理由があったはずで、それを今になって否定するつもりはないからです。
それでも一つだけ書き残せるとしたら、あの比較を続けていた時間そのものが、無駄だったとは思わない、ということです。始めてみたら、始める前に想像していたほど大きな出来事は何も起きませんでした。良くも悪くも、それが私の記録のすべてです。
なお、この記事を読んで、どの口座がいいか、何を買えばいいかを個別に相談したい、というご連絡をいただくことがありますが、そうしたDMや個別のご相談には、今後も一切お答えしていません。私が書けるのは、あくまで自分がこうだった、という記録だけで、それはすべて公開の記事という形でしか発信しないようにしています。